八木素萌先生について
古典の矛盾に挑戦した発想家
八木素萌先生(1928-2007)は慣習的な古典の解釈、特に難経の解釈に多くの矛盾を見出し、多くの革新的な解釈を打ち出されました。
定説とされていた学説であっても臆せず間違いを指摘する姿勢は当時、多くの議論を呼ました。しかし、その研究の成果を出版物などの形でまとめる前に亡くなられたため、その学説が広く知られているとは言い難いのが現状です。
しかし、その古典の本質を引き出す学説や発想は今の鍼灸業界を見渡してもなお異彩を放ち続けるものであります。
難経の研究
革新的な難経の解釈
八木先生の業績として最も知られたものは難経の専門家としてのものです。従来の難経の解釈における問題点の指摘を数多く行い、またそれらを解決し得る解釈を作り出しました。
しかしながら当時の主流であった経絡治療が論拠としていた学説の矛盾も数多く指摘したため、度々激しい議論を引き起こしました。
代表的なものに六十九難に基づいた経絡治療式の脈差鍼の問題点の指摘、八難の呼吸と臓腑配当における解釈の誤りの指摘などがあります。
いずれも昭和以降の鍼灸理論を足元から覆すものであり、正当な評価がなされていれば非常に大きなインパクトを持つものです。
運気論の臨床での活用
時代の先を行った先見性
近年、外邪の治療を研究していく上で運気論の注目度が高まりつつあります。運気論はその難解さから長年避けられてきた、あるいは占いと同等のものだとして軽んじられてきた分野でありました。
しかし、六気六淫を始めとした現在の外邪概念の多くが運気論をベースに構築されており、外邪の治療を突き詰めれば避けられないものであります。
八木先生は早くから運気論の重要性に気づいており、その臨床での活用を模索されていました。研究は道半ばで亡くなられてしまいましたが、当会では八木先生の成果を基にさらに踏み込んだ運気論の研究を行っています。
汎用大鍼
『一組で九鍼を』をコンセプトに
汎用大鍼は八木先生が開発された金銀一対からなる大型の接触鍼です。
一組で古代九鍼を網羅的に運用することをコンセプトにいくつかのプロトタイプを経て現在の形になりました。
そのコンセプト通り多様な使い方が可能でありますが、一方で扱いには一定以上の鍼の技術が必要とされるため、現代鍼法・杉山真伝流といった伝統的な基礎技術をしっかり修めておく必要があります。
漢法苞徳会の趣旨
鍼灸師はいかにあるべきか
「苞徳会の趣旨」は八木先生が主催されていた漢法苞徳会の運営方針で、八木先生の思想の根本といえるものであります。
私たちはともに研鑽を重ねて
臨床カンファレンスのできる力量を養おう
伝承技術を正しく継承し発展させよう
漢法医学に基づく基礎の確かな臨床科になろう
古典の確かな読解力を身につけよう
広い心と視野とで種々の臨床的手法を把握しよう
当会は以上の5項目を実践し、素問・霊枢・難経に基づき、傷寒論・温病学・現代中医学をも学び、また日本の漢法鍼灸医学を継承した基礎の確かな・医の心のしっかりした鍼灸臨床科を目指した研修を図るものである。